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【声劇】残された人々
三人の視点から亡くなった人物について語っています。
三編に分かれており、一編につき一人ずつ語っているので、一人で全編演じられます。
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メール?
私に? 誰から? え?
えーと、今葬式してる子?
あーあーあー、はい。はい。なるほど。
昔アドレス交換してたかも。
ちょっと待ってね。
あー、これかなぁ。
メールってあまり見ないんだよねぇ。
仲良い子とはLINEあるし。
えーと
「今なにしてる?」
「ちょっと時間ない?」
あー。あははっ。
思い出したわー。
こういうメール、一番返信に困るんだよねぇ。
用件ないなら返す必要ないでしょ?
この子のメールいつもこんなんだから返信しにくくって、そのうち中も見なくなっちゃった。
前にも「ちょっと時間ない?」って言われて、
ちょっとだけならってファミレスで会ったら、ずーっと自分の話ばっかり。
全然帰してくれなくってさぁ。
たまにこっちにも話振ってくるんだけど。
え? 私等まだそんな親しくないよね? みたいな。
図々しいって言うか、いきなり突っ込んだ事聞いてきて。
家族の話はあんまりしたくないって言ったんだけど。
次に会った時にはまた思い出したように聞いてくんの。
本当はこっちの話なんて興味ないんだろうね。要するに。
で? なんだっけ?
この子がどうかしたの?
あーあーあー。はい。はい。
死んだんだっけ。
あーそうだった。
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はい。気付いていました。
電話が鳴ってましたからね。
何度も。何度も。執拗に。
ほら、着信履歴。
上から下までその子でしょ。
ちょっとね。ぞっとしますよ。
こういうの、初めてじゃないんです。
普通寝てるような真夜中でも、構わずかけてきて。
時間だとか相手の都合にはあまり関心がないようでした。
当然文句の一つも言いたくなるんですけど。
出るまで鳴らし続けますから、渋々出るんです。
そうすると、
「さっき薬飲んだ、眠くなってきた」
「声響いてる? 今お風呂にいるの。また切っちゃった」
なんて、始まる訳ですよ。
こっちだって怒ってますけど、そんな話されたら、電話を切って寝直す事もできないじゃないですか。
一番腹が立ったのは、あの子がまず彼氏に……
あ、彼氏とは違うのかな。
する事はしてたみたいで、そういう話も何度か聞かされましたけど。
薬飲んでから彼に電話したのに、その彼が電話に出なかったとかで。こっちに電話してきて。
彼女からしたら、私じゃなく彼に駆けつけてほしかったんでしょうね。
でももう飲んじゃった後だったから。
分かってるんです。
彼女の「死にたい」は、そのままの意味じゃない。
「助けて」とか、「こっちを向いて」とか、「もっと貴方と親しくなりたい」っていう、彼女なりのコミュニケーションだって。
彼女の「死にたい」は、死に方じゃなく生き方なんです。
でもね。それも毎回続くと、こっちも疲れてきちゃって。
私の方もちょっと、上手くいかない日が続いて。自分の事だけで精一杯で。
万が一って可能性がない訳じゃない。気付いていたのに。
私、私は……
どうしてあのタイミングだったんだろう。
どうして電話をとってあげなかったんだろう。
どうして……
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あの日、私は電話に出ませんでした。
あの子からの着信に気付いていて、気付いたから出ませんでした。
あと三回着信が来たら出よう。
あと二回着信が来たら出よう。
あと一回。
ううん、もう一度だけ呼び出し音が鳴ったらもう出てしまおうか。
何度もそんな葛藤を繰り返しながら、出ませんでした。
分かってほしかった。
あの子をいつも気にかけているのは私だって。
あの子を一番心配しているのは私だって。
あの子が頼れるのは私だけだって。
私に見捨てられたらどうなるか、
少しで良い。
私があの子の事を考えている時間の、十分の一でもいい。
気付いてほしかった。
ふっ……ふふ、
馬鹿みたい。
見捨てられたのは私の方。
あの子にとって、私は、未練にもなれなかったんです。
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