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【朗読】捕食者の日
全年齢 朗読 声劇台本(一人用)-----------------------------
切っ掛けはほんの出来心。
押し入った先で鉢合わせた女は言った。
お願いします、出て行って下さい。
このまま出て行ってくれたら通報はしません。
もうすぐ主人が帰ってくるんです。
今この家に男手はない。
それを聞いてのこのこ出ていく馬鹿はいないだろう。
喉が渇いたと言えばお茶が出て、腹が減ったと言えば遠慮がちに手料理をふるまってくれる。
今も、シャワーを浴びたいと言った俺の為に女は風呂の準備に向かった。
怯える女にもてなされるのは悪くない。
捕食者の嗜虐心を煽る、いい女だ。
さて、旦那が帰ってくる前に食後のデザートも頂こう。
流れる湯の音に誘われ他人の家で浴室を探す。
この背徳的な興奮に冷や水を浴びせたのは、鼻腔を突く刺激臭だった。
この臭いには覚えがある。
昔派遣で行った、清掃業者の使う強力な業務用洗剤で…………
「主人が帰ってくるんです」
女はいつの間にかぴたりと背後に張り付いていた。
なのに俺は首ひとつ捻る事もできない。
浴室の折戸から投げ出された、赤く爛れる男の足に気付いてしまったから。
「主人はあの女に汚されちゃったから。だから綺麗に洗うんです。
綺麗になったら帰ってくるんです。元の主人になって帰ってくるんです。そうすれば前と変わらずまた一緒に暮らしていけるんです。
なのに貴方が出て行ってくれないから」
帰ってくる筈の夫の料理が用意されていない家。
侵入者の一挙手一投足を窺う視線は、怯えではなく監視。
捕食者の巣に迷い込んだのは俺の方だった。
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